この記事は以下の記事の続きとなります。今回はQRS波について解説を行なっていきます。

また、誘導(Ⅰ、Ⅱなど)の理解があるものとして話を進めていきますので、誘導について不明な点は以下を参照してください。

Ⅰ、Ⅱの振幅和が0以上

以下は肢誘導の軸方向を示したものです。

40才以上の成人について

40才以上の成人においては、電気軸の正常値はー30°~90°(上図の赤で示した範囲)である。これはⅠ、Ⅱの振幅和(※上向きの揺れの和ー下向きの振れの和)がともに正であることで確認できる。(必要十分条件)

 

以下にその根拠を示す。

(証明)Ⅰの振幅和が正 ⇄(同値)QRSの平均電気軸が−90°~ + 90°

Ⅱの振幅和が正 ⇄(同値)QRSの平均電気軸が−30°~ + 150°

以上より、 Ⅰ、Ⅱの振幅和がともに正 ⇄(同値)QRSの平均電気軸が−30°~ + 90° (証明終)

したがって、40才以上の成人においては、Ⅰ、Ⅱの振幅和がともに正であることを確認すればよい。

40才未満の若年者について

QRS平均電気軸は、年齢とともに右軸方向から左軸方向へと変化していく。例えば、右軸方向への正常上限は、生後1~3ヶ月で140°、3ヶ月〜16才で120°、20~40才で97°である。(40才以上は前項で述べたように90°以内となる。)

したがって、40才未満の若年者については、年齢ごとに電気軸を検討する必要がある。以下に電気軸の求め方を解説する。

QRS平均電気軸の求め方

1振幅和が0の誘導がある場合

Ⅲ誘導について、振幅和が0であるから、QRS平均電気軸はⅢ誘導に直行する。(+30°もしくは210°のいずれか)これと第Ⅰ誘導の振幅和が正であるゆえ、QRS平均軸は+30°である。

2 30°刻みで範囲を絞り込む方法

Ⅰ、Ⅱの両方で正なので、QRS平均電気軸は-30°〜+90°である。

またⅢ誘導で正だから、+30°〜+90°

さらにaVLで負だから+60°〜+90°

よって、QRS平均電気軸は+60°〜+90°の範囲にあるといえる。

3ⅠとaVFを利用する方法

2 30°刻みで範囲を絞り込む方法で扱った心電図についてもう一度考えます。

振幅和は、I誘導で2mm, aVF誘導で5mmである。したがってQRS平均電気軸は以下のようになり、68°と求められる。

わざわざ計算しないといけないので、手間だが、精密な値を知ることができる。

※S1S2S3パターン

Ⅰ誘導、Ⅱ誘導、Ⅲ誘導のすべてで深いS波を有する場合、S1S2S3パターンと言う。正常変異のこともあるが、右心系の負荷を示す所見(右房拡大等)や前壁の梗塞が見られることがある。

Ⅰ、Ⅱ、aVF, V2~V6に異常Q波が見られない

異常Q波とは、幅が0.04秒(=1mm)以上、深さがその誘導のR波高の25%以上の絶対値を有するものである。

・QRS平均電気軸の正常範囲内の向きの誘導において異常Q波は見られない。(Ⅰ、Ⅱ、aVF、V2~V6)

・異常Q波は心筋の壊死を示唆する所見である。心筋梗塞などで見られることがある。

I, aVL, V5, V6の正常Q波は、心室中隔の左室側から右室側への興奮を示唆する。(左脚ブロックにおいて消失する)

(参考)異常Q波が生じる機序

壊死に陥った領域の心筋の起電力消失 → その領域と反対側の心筋の起電力が優勢となる→壊死に陥った領域を観察する誘導では、起電力が遠ざかる向きに強くなる( = 異常Q波の発生)

したがって、前壁の心筋梗塞では胸部誘導V2,V3などで、下壁ではⅡ、Ⅲ、aVFで、側壁ではⅠ, aVL, V4~V6などで異常Q波が認められることがある。

QRS時間が2.5mm(0.10秒)未満

・QRS時間が2.5mm未満かどうかの確認はⅡ誘導のみで十分である。

胸部誘導においてR波の増高がV2よりも後かつV5よりも手前

R波の増高とは

R波の増高(r progression)とはR波(陽性波)の高さ/S波(陰性波)の深さ の比(R/S比)の増加のことである。

正常な胸部誘導心電図では、V1はrS型(R/S比 < 1)であり、V2,V3と左側壁の誘導にいくにしたがって、R波が徐々に大きくなる。(R/S比の増加)

R/S比が<1から>1に変化する部位を移行帯(transitional zone:Tz)とよび、V2よりも後かつV5よりも手前であれば正常である。

QRS電位が正常(SV1 + RV5 or RV6 < 35mmかつ RV5 or RV6 < 26mm)

例えば上の心電図では、SV1 + RV5 = 33<35mmより正常。