ST上昇の判断基準
・等電位線とはT波(U波)の後〜P波の前の部分を結んだ線である。J点とはQRS波とST部分を結ぶ点であり、角度が急なところから緩やかなところに変わる点である。 J点(junctional point)と等電位線を比較して1目盛り以上ずれがある場合にST部分の上昇・下降と判断する。

しかしながら、以下の図のように心房の再分極波Ta部分の存在により、QRS波の立ち上がる直前のPQ部分が等電位線より下降して見えることがある。その場合には、PQ部分を基準にST部分の上昇、下降を判断する。
STEMI診断のルール
・STEMIの古典的ルールは「1mm以上のST上昇が2つ以上の解剖学的に隣り合っている誘導で見られる」ことである。
・V2,3でのみ偽陽性が多いため、2mm以上の上昇を有意と考える。
・真のSTEMI患者を見逃さないため、5-10%程度のオーバートリアージは許されると考えて良い。
・ST上昇を認めた場合には鏡像変化を探すことが大切である。
ST上昇 | ST低下(鏡像変化) |
V1-V4 | Ⅱ, Ⅲ, aVF |
Ⅰ, aVL, V5, V6 | Ⅲ, V1 |
Ⅰ, aVL, V1-V5 | Ⅱ, Ⅲ, aVF |
Ⅱ, Ⅲ, aVF | Ⅰ, aVL |
V7-9 | V1-V3 |
V1, V4R | Ⅰ, aVL |
合併症への注意
・後壁を栄養するPDA(Poterior descending artery)はRCA(90%)やLCX(10%)から分岐するため、下壁梗塞、側壁梗塞のいずれの場合も後壁梗塞に注意する。(後壁を直接見ることのできる誘導は存在しないので疑わないと見逃す)
・下壁梗塞において、Ⅱ誘導におけるST上昇>Ⅲ誘導におけるST上昇であればLCXが責任血管であり、逆であればRCAが責任血管である。
・RCA閉塞が疑われる場合には右室枝の閉塞により生じる右室梗塞の可能性を考え、右胸部誘導の評価を行う。高度な心筋虚血をきたしている場合には房室ブロックも傷害され(伝導経路は心筋よりも通常やられにくい)房室ブロックを呈することがある。また大動脈解離を合併しやすいことにも注意。
・大動脈解離を疑うポイントは、大脈圧(脈圧>収縮期血圧÷2)であるのにも関わらず徐脈であり意識が清明でないこと、胸痛+αの症状(神経学的局在所見、脈の脱落や血圧の左右差、背部痛・腹痛・下肢痛といった症状の移動)
・aVRが上昇し、広汎なST低下を認める際には、LMTやLAD近位部閉塞を疑う。心室中隔の虚血によってHis束以下のブロックを生じ、永久ペースメーカーが必要な重篤な房室ブロックを引き起こすことがある。