動脈血ガスを提出する目的

・SpO2を利用することで、呼吸状態を簡便に測定することができる。では、動脈血ガスを測定しなければならないのはどのような場合であろうか。

・動脈血ガスの最大の利点は、pHとPaCO2が得られる点である。したがって、呼吸状態の評価において、換気や拡散の障害が考えられる場合(呼吸には換気、拡散、血液によるO2の受け取りの3つの過程がある)、代謝性の酸塩基平衡異常が考えられる場合には測定するべきである。(Na – Cl = 36を逸脱している場合)

動脈血ガス測定のタイミング

・酸素投与量を変更してから、健常者では、COPD患者では20分の時間が必要である。(∵定常状態になるまでそれだけの時間がかかる)

2分以内にシリンジ内の空気を押し出すこと。

・常温では20分以内に測定すること。

静脈血ガスで代用できる場合

・静脈血ガスは、酸素化の状態以外(動脈血ガスのpH、HCO3-, PaCO2)の推定には使える。

・静脈血ガスの値に対して、pHは+ 0.03, PaCO2 は-5mmHg, HCO3-は-1 mEq/L することで求められる。

呼吸状態の評価

step1:PaO2により呼吸不全の有無を評価

PaO2≦60Torr(mmHg)呼吸不全と定義する。

・PaO2値の評価の際には、以下のことに注意する。

  1. PaO2の40-50-60mmHgは、SaO2の70-80-90%に対応していること。
  2. 健常者のPaO2は20歳100mmHgであり、10歳ごとに3~4mmHg下がること。
  3. PaO2が正常でも、貧血、CO中毒やメトヘモグロビン血症など、ヘモグロビンの酸素運搬能低下が疑われる場合には、注意が必要である。

・PaO2に対して、SaO2が相当値よりも低い場合、アシデミア体温上昇による酸素解離曲線右方偏位を考える。

※PaO2とSaO2の違い

PaO2は、呼吸血液循環がうまくいっているかどうかを評価するのに適するのに対し、SaO2は組織に必要とされる酸素量が運搬できているかを評価するのに長ける。酸素運搬能=(0.003 x PaO2 + 1.34 x Hb x SaO2) x 心拍出量であり、PaO2よりもSaO2に大きく依存する。

step2:PaCO2とA-aDO2による原因の推定

・呼吸不全の原因には以下が考えられる。

  1. 肺胞低換気
  2. 拡散障害
  3. 換気血流不均衡
  4. シャント

それぞれ、Aa-DO2とPaCO2が以下のように変化する。

AaDO2が正常の場合は、1肺胞低換気を考える。

・少量の酸素投与に反応してSpO2が良好に反応する場合は、2拡散障害 を考え、中等度に反応する場合は3換気血流不均衡、ほとんど反応しない場合には4シャント を考える。(∵酸素投与に良好に反応することは、PaO2=60mmHg付近の肺胞が多量に存在することを示唆する)

※AaDO2とは

“肺胞気動脈血酸素分圧較差”であり、肺胞気と動脈血の酸素分圧の差を表す。“肺胞から動脈血に酸素が移動できているかどうか”の指標であり、開大している場合はそれが傷害されていることが示唆される。

Aa-DO2 = 150 – PaO2 – PaCO2/0.8で概数を計算できる。

健常人では10~20mmHgが正常とされるが、高齢者では40mmHgまで正常である。

酸塩基平衡異常

step1:PHの値の評価

pHの値から、アシデミア(pH<7.35)なのか、アルカレミア(pH>7.45)なのかを判断する。

※アシドーシス&アルカローシスとアシデミア&アルカレミアの違い

血液を酸性に傾けようとする働きをアシドーシス、塩基性に傾けようとする働きをアルカローシスと言い、現時点でpH<7.35のことをアシデミア、pH>7.45のことをアルカレミアと言う。

step2:PaCO2とHCO3の評価

・CO2は40±5mmHgを基準に、HCO3は24±2mEq/Lを基準に、以下の表に当てはめて、4つのうちのどの状態であるかを確認する。

※代謝性/呼吸性 アシドーシス/アルカローシス とは

血液pH = 6.1 + log[HCO3]/0.03 x PaCO2 (Henderson-Hasselbalchの式) .

∴血液pHを規定する主なものはHCO3とCO2がある。HCO3は血液を塩基性に傾ける働きをし、CO2は酸性に傾ける働きをする。

・HCO3の減少orCO2の上昇(血液を酸性に傾けようとする働き)をアシドーシス、HCO3の上昇orCO2の減少(塩基性に傾けようとする働き)をアルカローシスと言う。

・HCO3は代謝、CO2は呼吸により変動する。ゆえに、例えば、HCO3↓によるアシドーシスを代謝性アシドーシス、CO2↑によるアシドーシスを呼吸性アシドーシスと言う。

・代謝と呼吸は相互に代償関係にある。(例えば、代謝性アシドーシスでは、HCO3が低下する。PaCO2を低下させることで呼吸性に代償する。)呼吸性の代償は速やか(~24h)であるが、代謝性の代償は数日かかる

step3:アニオンギャップ(AG)の評価

・代謝性アシドーシスの場合は、AGを評価する。

AG = Na – (Cl + HCO3) (基準値 12±2)

・AGが開大している場合には、補正HCO3を計算する。(もしAGがなかったら、HCO3の値はどのようになっていたかをシミュレーションする)

補正HCO3 = HCO3 + ⊿AG(基準値 24±6)

・補正HCO3が高値の場合には代謝性アルカローシス、低値の場合には、代謝性アシドーシスの合併を考える。

※AGとは何か

AG = Na – (Cl + HCO3)であり、陰イオン蛋白や不揮発性酸(下図の白の帯)の量を示す。正常の場合は、HCO3の減少とClの上昇下痢腎不全初期尿細管性アシドーシス)、開大の場合は、陰イオン蛋白や不揮発性酸の上昇(腎不全、乳酸の上昇、ケトアシドーシス、薬物中毒)を考える。

step4:代償が予測範囲内か確認

・代謝性の酸塩基平衡異常においては、適切な呼吸性の代償が行われた場合、HCO3 + 15 = PaCO2 が成り立つ。(magic number 15)

・呼吸性の酸塩基平衡異常においては、代謝性の代償が行われる。適切な代償が行われた場合には以下の表のようになる。

1,4,2,6(石風呂)と覚える。

練習問題

練習問題1

55歳男性。糖尿病でインスリン療法中である。6日前から上気道炎症状、食欲不振と下痢があり、インスリンを中止していた。意識障害のため、搬送された。血圧123/63, HR 90/min, RR 20/min. Na 140, K 4.4, Cl 105, Cre 2.1, BUN 40, 血糖621, pH 7.14, PO2 70, PCO2 33, HCO3 12, 尿ケトン 3+

(解答)

step1: pH<7.35であり、アシデミアである。

step2: PCO2↓かつHCO3↓であり、代謝性アシドーシスを認める。

step3: AG = 140 – (105 + 12) = 23 > 12 + 2 = 14より、 AGの開大を認める。

補正HCO3 = HCO3 + ΔAG = 12 + (23-12) = 23 これは24±6の範囲内である。

step4: 予測PCO2 = HCO3 + 15 = 12 + 15 = 27 < 実際のPCO2 = 33 ∴呼吸性アシドーシスを認める。

以上より、AG開大代謝性アシドーシス + 呼吸性アシドーシス(答)

練習問題2

53歳女性。腎不全のため血液透析中である。先週の金曜日の透析後に発熱と下痢があり、今週月曜日の透析に来院しなかった。その後嘔吐を繰り返し、火曜日の今日、意識障害で搬送された。血圧92/62 Na 127, K 4.0, Cl 88, Cre 8.8, BUN 100, pH 7.40, PO2 95, PCO2 27, HCO3 16

(解答)

Step1: 中性. 

step2: PCO2↓かつHCO3↓であり、代謝性アシドーシスを認める。(状況とAGが上昇していることから、呼吸性アルカローシスよりも代謝性アシドーシスを考える。)

step3: AG = 127 – (88 + 16) =23>12+2 = 14 ∴AG開大を認める。

補正HCO3 = 16 + (23-12) = 27 < 24+6 = 30  ∴基準値内であるが、補正HCO3はやや高値であり、代謝性アルカローシスの合併を疑う。

step4: 予測PCO2 = HCO3 + 15 = 16 + 15 = 31> 実際のPCO2 = 27 ∴呼吸性アルカローシスを認める。

以上より、AG開大代謝性アシドーシス + 代謝性アルカローシス + 呼吸性アルカローシス(答)