静磁場でのプロトンの歳差運動

・生体内には多数の水素原子核=プロトンが含まれており、MRIでは、その性質を利用している。

・すべてのプロトンは磁場B0を軸に以下の2パターンの歳差運動をはじめる。(図3)

・歳差運動を行う際の自転軸の角度は静磁場B0に対して54.7°で一定である。

・歳差運動の角速度ω0はプロトンの置かれる磁場B0の強さに比例する。(ω0 = γ・B0)

・左側のようなタイプの歳差運動を行うプロトンは基底状態にあると言い、右側のようなタイプの歳差運動を行うプロトンを励起状態にあると言う。

図3

・以下で、歳差運動を行っているプロトンを下の図のように省略して表現することとする。(図4)

図4

・実際の撮像対象の場には無数のプロトンが存在している。静磁場の強さを変えてプロトンの挙動を観察すると以下のようになる。(図5)

図5

・静磁場中のプロトンはほとんどが(基底状態、励起状態の)ペアー(青矢印で表されたもの)で歳差運動を行っている。これらのペアーを作るプロトンは磁場の乱れを生み出さないため、MRIの信号発生に関与しない

・一方で、ペアーを作らない基底状態のプロトン(赤矢印で表されたもの)が存在し、これがMRI信号発生に関与する。その数は静磁場の強さが強くなるほど多くなっている。

・これらの基底状態のプロトンをまとめて下のように表現することとする。(図6)

図6

(参考)外磁場のない状態でのプロトンの挙動

プロトンの自転による磁場の発生

・生体内で、プロトンは下の図のように(黒い矢印)自転しており、磁気モーメントμを持ち、棒磁石と見ることができる。(図1)(磁気モーメントは磁力の大きさとその向きを表すベクトル量である)

・中学高校時代に習った”円形電流がつくる磁場”を思い出すとよい。

図1

プロトンの自転軸はバラバラゆえプロトン全体の磁気モーメント=0

・自転しているプロトン同士はそれぞれバラバラな軸でペアーを作って存在している。(図2)(青矢印はそれぞれ磁気モーメントを表す)

・ペアになっているもの同士打ち消し合うため、プロトン全体の磁気モーメント=0となる。

図2