・この記事は以下の続きです。
・以下では代表的な撮影法であるspin echo法の原理を説明する。
・spin echo法は90°パルスを加える→FID信号の発生→180°パルスを加える→エコー信号の発生というシークエンスが基本となっている。画像作成に用いるのは、エコー信号である。

①自然状態
・ペアをつくっていないすべてのプロトンは基底状態にある。(図1)
(実際には無数のプロトンが存在するが、ここでは便宜上、6つのプロトンについて考えることとする。下の図の意味が分からない場合にはhttps://namagaku.com/2020/02/08/mri-genri2/を参照のこと)

②③90°パルスによるFID信号
・90°パルスをかけると、片側からプロトンの半数が基底状態→励起状態となる。したがって、Z軸方向の磁化ベクトル=0となり、磁化ベクトルはxy平面上に移動する。(図2の赤矢印)

・この磁化ベクトルは原点を中心にxy平面上を回転する。したがって、 xy平面上にコイルを置くと、コイル内の磁場が変化する。これにより、コイルには磁場の増減を打ち消す方向に自己誘導起電力が発生する(高校物理で習った電磁誘導)。これがFID(free induction decay:自由誘導減衰)信号である。(図3)

・上図を見ると、FID信号は急速に減衰することが分かる。これは、プロトンの位相がずれ、xy平面上の合成磁化ベクトルが小さくなるからである。(図4)
(注:際には無数のプロトンが存在するが、説明をしやすくするために下図においては両端にある6つのプロトンについて考える。)


・このようにプロトンの位相がずれることで、FID信号が減衰していくことをT2*緩和と言い、FID信号の振幅をなぞった曲線が、T2*緩和曲線である。(図5)

・T2*緩和曲線において電流の大きさがはじめの1/eになる時間をT2*時間と定義する。
・T2*緩和曲線の方程式は、y = e^-t/T2* となる。
・T2*強調画像はFID信号を受信することで得られる。
⑥~⑨180°パルスとエコー信号
・180°パルスを加えると、プロトンのすべてが基底状態→励起状態あるいは励起状態→基底状態に変化する。

・したがって、xy平面の成分ベクトルは以下のようになり、(90°パルスを加えてから180°パルスを加えるまでの時間をαとすると)180°パルスを加えてからα時間後に位相がそろう。このときに得られる信号をエコー信号と言う。

・エコー信号の最大振幅はFID信号の最大振幅よりも小さくなる。これをT2緩和と言い、FID信号の最大振幅とエコー信号の最大振幅を結ぶ曲線がT2緩和曲線である。

・T2緩和曲線において電流の大きさがはじめの1/eになる時間をT2時間と定義する。
・T2緩和曲線の方程式は y = e^-t/T2 となる。
・T2緩和時間は必ずT2*緩和時間よりも長い。
実際のパルスシークエンス

・spin echo法では、シークエンスごとに1回の90°パルスと1回または複数回の180°パルスを加える。シークエンスを何度も繰り返してエコー信号を受信する。
・90°パルスの間隔をTR時間(Repetition Time)といい、直前の90°パルスから信号受信までの時間をTE(Echo Time)という。
・通常TEは、エコー信号が最大となる時間になるように設定される。