解熱の前に
迅速な対応を必要とする疾患の除外
・意識障害、収縮期血圧≦100 mmHg, 呼吸数≧22回/分で敗血症を疑う。
・細菌性髄膜炎を疑った際には、①血液培養提出→②抗菌薬投与→③頭部CT施行→④腰椎穿刺 の順で検査を行う。
・発熱性好中球減少症(薬を用いたがんの治療に伴って好中球が500/μl未満に減少している際に、体温が37.5度以上に発熱した状態)も数分単位で病状が悪化するため早急な対応を必要とする。
・頻度は稀だが、セロトニン症候群(セロトニン作動薬によって中枢神経でのセロトニンが過剰となることで起こる疾患)も鑑別に挙げる。意識障害、交感神経の過剰刺激(発熱・発汗・頻脈)、神経筋の異常(四肢の振戦・腱反射亢進・クローヌス)が3徴である。
・その他、壊死性筋膜炎、結石性腎盂腎炎、化膿性関節炎、膿瘍形成も数時間単位で進行するため注意が必要である。
原因の検索
・まずは頻度が最も高く、治療をしないと比較的急速に悪化する感染症から考える。院内発症の発熱の場合、以下の7Dで鑑別を行う。院内での熱源検索のコツは「人工物や医療介入の周辺」を丹念に調べること。
・感染症でないだろうと推測しても不確定の場合は、発熱3点セット(Fever workup)「血液培養2セット、胸部Xp 、尿検査(定性・沈渣・培養)を行う。
Drug | 薬剤熱 |
Device | デバイス |
DVT | 深部静脈血栓症 |
CDトキシン | CD腸炎 |
Decubitus | 褥瘡 |
CPPD | 偽痛風 |
Debris | 胆泥:胆嚢炎/胆管炎 |
発熱の生理学
・人間の体温は体温中枢のある視床下部で一定の温度(セットポイント)付近で調節されている。
・感染症などの炎症時にセットポイント上昇により体温が上昇することを発熱という。
・熱中症などによりセットポイントを超えて無理やり体温が上昇することを高体温という。
・セットポイントと実際の体温がずれている場合、体温をセットポイントに近づけるように生体反応が起こる。セットポイントよりも実際の体温が低い場合は、皮膚の血管収縮やシバリングにより熱産生を増やす。セットポイントよりも実際の体温が高い場合には、発汗や皮膚の血管拡張により熱を放出する。
解熱薬の処方
・高体温、41℃以上の発熱、心肺停止からの蘇生後、脳卒中・頭部外傷などの急性期脳障害の場合には臓器障害防止のために積極的に体温を下げるべきであるが、それ以外では患者の自覚症状緩和が目的であり必ずしも必要ではない。
・クーリングのみを行う場合、セットポイントは低下せず、体温のみ低下するため、シバリングの発生に注意する。
・基本的にアセトアミノフェンを経口投与する。経口投与が難しい場合には座薬を用いる。発熱時に少なくともルーチンでNSAIDsは用いない。
アセトアミノフェン | NSAIDs |
解熱・鎮痛効果あり 抗炎症作用なし 高用量投与で肝障害が起こる場合がある。肝障害時にはN-アセチルシステインを投与。 小児・妊婦に使用可(ただし特に妊娠初期は必要最低限の量に留める) |
解熱・鎮痛効果あり(鎮痛効果はアセトアミノフェンより優れる) 抗炎症作用あり 高齢者・喘息・腎機能障害がある場合は不可 長期間の投与はなるべく避ける |