・発症早期に来院した患者は重症化するものや緊急手術を要するものである可能性が比較的高いため心してかかる。
・必ずしも「本人が痛いという部位」=「最も痛い場所」ではない。問診は参考程度に、身体所見で確定する。(内臓痛は本人の位置把握が曖昧であるから。典型的なのが「急性虫垂炎」である。本人が「胃が痛い」と訴え、急性胃腸炎と誤診されるケースがある)
・発症様式をsuddenかacuteかgraduallyの3つに分ける。(sudden:ある一瞬を堺に痛みが最強になったもの、acute:数分から十数分かけて痛みが最強になったもの、gradually:数十分から数時間のうちに痛みが増強したもの)
・suddenの場合には「破裂」「閉塞」「捻転」を考える。(消化管穿孔や出血性疾患) 腹腔内臓器外の疾患として、心筋梗塞や大動脈解離も念頭に置くこと。(尚、消化管穿孔はsudden, acute, graduallyのいずれもありうる)
・持続痛か? 間欠痛か? 発作性か?(Continuous or Intermittent?)を聴取する。間欠痛は消化管(虫垂を含む)に病態の首座があり、虚血や穿孔などはないことを示唆する。間欠痛が最も明瞭になるのが腸閉塞や腸炎である。間欠の間隔はTreitz靭帯からの距離に比例するため、急性虫垂炎では数時間の間隔でオン・オフがはっきりしない。
・悪心・嘔吐、下痢は消化器症状であり、消化器疾患か否かを推定するのに役立つ。ただし、消化器疾患でなくても強い痛みを伴うときには悪心・嘔吐を伴うことがあるため注意が必要である。そのような場合でも、経過を追うと下痢や嘔吐が持続することは少ないため消化器疾患ではないと判断できる。
・悪心・嘔吐がある場合には、①悪心のみ②食物残渣様③水様吐物のどれであるかを明確に聴取する。①であれば、癒着性腸閉塞は否定的であり、腹部疾患に付随したものや絞扼性腸閉塞の早期を考える。②の場合は、痛みに伴ったものか胃出口部での閉塞を疑う。③の場合は、癒着性腸閉塞を疑い、褐色腸液が見られる。閉塞部位が十二指腸に近づくほど、色が緑色に近くなる。緑色や胃液様の嘔吐が見られる場合にはclosed loop obstructionの可能性がある。
・下痢については、下痢の性状(水様性・血性)・回数を確認する。
・下痢の存在は、腸管粘膜側に病変がありかつ消化管蠕動が低下していないことを意味する。回数が頻回で大量の水様下痢の場合には腸炎と考えてよいが、回数が少ない場合には特異的とは言えない。量が少ない場合には、下痢でない可能性がある。
・発熱がある場合には、感染症を考える。消化管穿孔や腸壊死からの重篤な敗血症が進行する際にはしばしば低体温を認めるため、発熱がなければ感染症が無いということにはならない。
・初期診断で難しいのは、腹部血管疾患、特に腸管虚血である。高齢者に多く、訴えが十分でないし腹部に目立った所見がないことを特徴とする。
以下の患者は高リスク群であり、診察の際に心してかかる。
65歳以上、免疫抑制状態(免疫抑制をきたす疾患あるいはステロイドなどの薬剤)、アルコール多飲者、心疾患罹患者(冠動脈疾患、弁疾患、心房細動)、重篤な併存症(糖尿病、癌、炎症性腸疾患等)、腎不全、妊娠早期
特に、心血管疾患(下肢PADを含む)や腎不全(特に透析患者)は特にハイリスク!
・虫垂炎を否定できるのは虫垂炎以外の腹痛の原因が特定された時である。(基本的に否定できない)
・「女性を見たら妊娠を疑え。妊娠を見たら、異所性妊娠を疑え。」
・積極的に疼痛の軽減を図る。まずはアセトアミノフェンや少量のモルヒネを投与する。NSAIDsは炎症を取ってしまい、診断の障害となるため推奨されない。(胆石や尿管結石に対してはNSAIDsを用いる) ブチルスコポラミン(ブスコパン®等)は強い間欠的な「疝痛」に有効なことがある。
・救急受診患者の1/3は初診時にはっきりした診断がつかない。少なくとも緊急の介入が必要な疾患を除外しようと努力したことを伝える。そのうち多くは自然寛解するが、一部悪化する患者がいることも併せて共有しておく。